退職給付の開示について(退職給付会計⑦)

退職給付会計の解説 | 2013年7月16日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【退職給付会計の解説】第7回目をお届けいたします。

 

 

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1. 退職給付の開示

 

今回は退職給付の開示について解説を行います。今回の退職給付の会計基準等の改正では、開示に関連して大幅な改正がありました。なお本項における用語の定義は断りのない限り、「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号、平成24年5月17日、以下、同基準)、及び、「退職給付に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第25号、平成24年5月17日改正、以下、同指針)、に基づきます。

 

なお、確定拠出制度の場合は当該制度に基づく要拠出額を持って費用処理し(同基準31号)、未拠出の額は未払金として計上することになり(同基準32号)、通常は複雑な開示は要求とされないため、ここでは確定給付制度の開示を中心に解説します。

 

 

2. 財務諸表上の開示

 

退職給付会計では従業員に対する退職給付の支払義務を退職給付債務、支払に備えて積み立てた資産を年金資産として認識します。通常、財務諸表において資産と負債はそれぞれ総額で表示し、相殺は行われませんが、年金資産は退職給付の支払いにのみ充てることが確定しているため、開示の際には退職給付債務と年金資産を相殺して開示します。

 

従来の退職給付会計の基準等では、退職給付債務の金額が年金資産の金額を上回る場合は「退職給付引当金」、逆に年金資産の金額が退職給付債務の金額を上回る場合は「前払年金費用」として開示していましたが、平成24年の改正後は連結財務諸表では、前者を「退職給付に係る負債」、後者を「退職給付に係る資産」として開示することになりました(同基準27項)。

 

また、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用について、改正前は財務諸表上において即時に認識されませんでしたが、改正後は税効果を調整の上、純資産の部におけるその他の包括利益調整額に「退職給付に係る調整累計額」等の適当な科目をもって計上することになりました(同基準27項)。

 

なお、個別財務諸表上では改正後も従来通りの開示方法となるため、注意が必要です(同基準39項)。

 

 

連結財務諸表

個別財務諸表

退職給付債務 > 年金資産

退職給付に係る負債

退職給付引当金

退職給付債務 < 年金資産

退職給付に係る資産

前払年金費用

未認識数理計算上の差異

未認識過去勤務費用

退職給付に係る調整累計額

(開示しない)

 

また、退職給付費用は原則として製造等に従事する従業員の分は売上原価、販売・管理部門に従事する従業員の分は販売費及び一般管理費に計上します(同基準28項)。なお、新たな退職給付制度の採用や給付水準の重要な改定で過去勤務費用を発生時に全額費用処理する際は、特別損益として計上することも認められています(同基準28項)。

 

 

3. 注記事項

 

確定給付制度においては、以下の事項について注記することが求められています(同基準30項、同指針52項)。

 

注記事項

 

(1)   退職給付の会計処理基準に関する事項

(2)   企業の採用する退職給付制度の概要

(3)   退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表

(4)   年金資産の期首残高と期末残高の調整表

(5)   退職給付債務及び年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る負債及び資産の調整表

(6)   退職給付にかかる損益

(7)   その他の包括利益に計上された数理計算上の差異及び過去勤務費用の内訳

(8)   貸借対照表のその他の包括利益累計額に計上された未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の内訳

(9)   年金資産に関する事項(年金資産の主な内訳を含む。)

(10)   数理計算上の計算基礎に関する事項

(11)   その他の退職給付に関する事項

 

なお、連結財務諸表において注記している場合は、個別財務諸表では(1)のみを注記すれば、他の事項は省略することが可能です。

 

各項目の詳細は以下の通りとなります。

 

(1)  退職給付の会計処理基準に関する事項

 

①    退職給付見込額の期間帰属方法

②    数理計算上の差異及び過去勤務費用の費用処理方法

 

退職給付見込額の期間帰属方法は、改正後は期間定額基準と給付算定式基準のどちらかにより計算することになります。

 

(2)  企業の採用する退職給付制度の概要

 

企業の採用する退職給付制度について、確定給付制度、確定拠出制度などの制度別に具体的な概要を開示します。

 

(3)  退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表

 

①    勤務費用

②    利息費用

③    数理計算上の差異の当期発生額(費用処理されたものを含む。)

④    退職給付の支払額

⑤    過去勤務費用の当期発生額(費用処理されたものを含む。)

⑥    その他

 

(4)  年金資産の期首残高と期末残高の調整表

①    期待運用収益

②    数理計算上の差異の当期発生額(費用処理されたものを含む。)

③    事業主からの拠出額

④    退職給付の支払額

⑤    その他

 

(5)  退職給付債務及び年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る負債及び資産の調整表

 

(6)  退職給付にかかる損益

①   勤務費用

②   利息費用

③   期待運用収益

④   数理計算上の差異の当期の費用処理額

⑤   過去勤務費用の当期の費用処理額

⑥   その他(会計基準変更時差異の費用処理額、臨時に支払った割増退職金等)

 

(7)  その他の包括利益に計上された数理計算上の差異及び過去勤務費用の内訳

 

(8)  貸借対照表のその他の包括利益累計額に計上された未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の内訳

①   (未認識)数理計算上の差異

②   (未認識)過去勤務費用

③   会計基準変更時差異(の未処理額

 

各項目について加減算の形で開示を行います。

 

(9)  年金資産に関する事項(年金資産の主な内訳を含む。)

 

①   年金資産の主な内訳として、株式、債券などの種類ごとの割合又は金額

②   長期期待運用収益率の設定方法に関する記載(年金資産の主要な種類との関連)

 

近年の年金資産の滅失などの不祥事の増加に対応し、特に年金資産に関する事項について情報開示の強化が求められています。会計監査においても今後は重点的な監査の対象となると思われます。

 

(10)  数理計算上の計算基礎に関する事項

 

①   割引率

②   長期期待運用収益率

③   その他の重要な計算基礎(予想昇給率等)

 

期末における主要な数理計算上の基礎について、採用している数値を開示します。

 

(11)  その他の退職給付に関する事項

 

その他に開示する必要が思われる事項が生じた場合は記載を行います。早期割増退職金の発生や企業再編により退職給付制度の変更が生じた場合等には開示の要否を検討する必要があると思われます。

 

 

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