開示すべき重要な不備について(J-SOX対応実務⑪)

内部統制報告制度(J-SOX)対応の実務 | 2013年3月23日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【内部統制報告制度(J-SOX)対応の実務】第14回目をお届けいたします。

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J-SOXの目的は、財務報告に係る内部統制に「開示すべき重要な不備」がないかどうかを外部に向けて報告することです。そのため、今回に記述する「開示すべき重要な不備」がどのようなものかを把握することは非常に重要です。

 

 

【開示すべき重要な不備とは】

 

 

実施基準によりますと、「開示すべき重要な不備」とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備とされています。そして、この「重要な」という判断は、金額的重要性、及び質的重要性により総合的に判断するとされています。

 

 

平たく言うと、会社の内部統制に不備があることが原因で、誤った財務報告を行う可能性が高く、その誤った財務報告によって、投資者の意思決定(投資判断)を誤らせてしまうほど重要となる可能性がある場合、当該内部統制の不備が「開示すべき重要な不備」となるのです。

 

 

投資者は財務報告が正しいものと信じて投資判断を行うわけですから、財務報告が間違っていることが原因でミスリードさせてしまうことは許されません。ただし、重要でない誤りは投資者の投資判断をミスリードさせませんので、問題に取り上げる必要がないのです。

 

 

【「重要」とは】

 

 

財務報告に影響を与える重要性は、会社の内容や規模、または投資者それぞれの考え方によって異なるものでしょう。例えば、税引前利益1,000億円の会社が1億円の売上計上漏れをする、といったように、規模に対して小さな誤りは、投資判断に影響を与えないでしょうし、逆に税引前利益5億円の会社が1億円の売上計上漏れをする場合は、投資判断に大きな影響を与えるかもしれません。

 

 

実施基準では、このような多面性を持つ重要性について、一定の目安を設けています。

 

 

まず、金額的側面からの重要性(金額的重要性)を、連結売上高、連結税引前利益、連結総資産などに対する比率で判断することを求め、例えば連結税引前利益の5%程度としています。実務ではこの値(連結税引前利益の5%)を用いるケースがほとんどですが、例えば赤字である場合など、連結税引前利益から重要性の金額が算定できない場合もあります。そのような場合は、会社に適した他の比率を用いて重要性の金額を算定する必要があります。

 

 

上記により設定した金額的重要性を超える虚偽記載(誤り)が、ここでいう「重要」なものであると考えます。冒頭の前者の例(税引前利益1,000億円の会社)の場合、50億円(税引前利益×5%)を超える金額が重要となり、売上計上漏れの1億円は重要ではありません。

 

 

次に、質的な側面からの重要性として(質的重要性)、実施基準では「例えば、上場廃止基準や財務制限条項に関わる記載事項などが投資判断に与える影響の程度や、関連当事者との取引や大株主の状況に関する記載事項などが財務報告の信頼性に与える影響の程度で判断する」とあります。

 

 

仮に財務報告の誤りが金額的に重要でなくとも、当該誤りにより財務制限条項を回避できる場合(つまり正しい財務報告だと財務制限条項に抵触し、多額の借入金を返済しなければならなくなる)など、ケースによっては、金額的には重要な誤りでなくとも、投資判断に重要な影響を及ぼすものも潜んでいます。上記前者の例で、仮に1億円の売上計上漏れにより、財務制限条項に抵触する場合、質的重要性があると考えなければならないかもしれません。

 

 

このように、重要性は金額的側面と質的側面の両方を考慮の上判断していきます。なお、金額的重要性は上記のとおり会社によって異なります。まずはこの金額的重要性についての判断基準を設けることが内部統制評価の出発点となるでしょう。

 

 

では、そもそも内部統制の不備とは何なのでしょうか。内部統制の不備には「整備上の不備」と「運用上の不備」があります。

 

 

【内部統制の不備】

 

 

(1)整備上の不備

 

整備上の不備は、財務報告における虚偽記載の発生リスクを合理的なレベルまで低減する内部統制が「存在しない」ないし、「現状の内部統制では目的を十分に果たすことができない」状態をいいます。

 

簡潔に述べると、そもそも、内部統制が十分でない状況です。ある局面におけるリスクを低減するための内部統制が存在しないのですから、財務報告に虚偽記載が発生する可能性が高くなります。

 

 

(2)運用の不備

 

一方、運用の不備とは、「設計した内部統制が意図どおりに運用されていない、又は運用上の誤りが多い、あるいは内部統制を実施する者が統制内容や目的を正しく理解していない」といった状態をいいます。 簡潔に述べると、ルール(内部統制)は存在するものの、ルールが守られていない状況です。

 

 

整備上の不備と運用上の不備について、下記例で見てみたいと思います。

 

 

【リスク(例)】

売上高の会計システムへの入力金額が誤るリスク

 

 

【上記リスクに対応する内部統制の模範解答(例)】

会計システムへの売上の入力金額が正確であることを確かめるために、週に一回、経理部において、経理部長が、請求書と会計システムの入力データを照合し、その証跡として、会計システムから出力された伝票に押印する

 

 

整備上の不備では、そもそも上記の内部統制が存在しない(誰も請求書と会計システムの照合を行っていない)、ないし、経理部長でなく、知識や経験のない平担当者が内部統制を担っており、内部統制が十分でないような状況が想定されます。

 

 

一方、運用上の不備では、週に一回の経理部長の統制行為が徹底されず、気まぐれに経理部長が照合を行うなど、ルールは存在するものの、実行が十分でない場合が想定されます。

 

 

どちらが致命的な不備かというと、整備上の不備ですが、運用上の不備も、放置すれば、財務報告の虚偽記載リスクが高まっていくこととなります。

 

 

内部統制の評価では、これら整備上の不備、運用上の不備を識別し、財務報告へどのような影響を与えるのかを測定することにより、「開示すべき重要な不備」に該当するか否かを判定していくこととなります(不備を集計した結果、重要性の判断基準を超える場合、「開示すべき重要な不備」に該当することとなります)。

 

 

なお、不備の集計に基づき「重要な不備」に該当するか否かを判断するプロセス(不備金額の集計)については第15回に委ねたいと思います。

 

 

では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

第1回 内部統制報告制度(J-SOX)って何?

第2回 そもそも“内部統制”って何?

第3回 我が国の法律で求められている“内部統制”

第4回 J-SOX全体像(J-SOX対応実務①)

第5回 全社的内部統制のポイント(J-SOX対応実務②)

第6回 決算財務報告統制のポイント(J-SOX対応実務③)

第7回 業務処理統制のポイント(J-SOX対応実務④)

第8回 RCM(リスクコントロールマトリクス)の作成方法(J-SOX対応実務⑤)

第9回 整備状況の評価方法(J-SOX対応実務⑥)

第10回 コンサルタントやツールの活用法(J-SOX対応実務⑦)

第11回 監査法人が行う内部統制監査への対応(J-SOX対応実務⑧)

第12回 運用状況の評価方法(J-SOX対応実務⑨)

第13回 サンプル抽出についての留意点(J-SOX対応実務⑩)

第14回 開示すべき重要な不備について(J-SOX対応実務⑪)(今回)

第15回 不備金額の集計方法(J-SOX対応実務⑫)

第16回 経営者による内部統制報告書の作成方法(J-SOX対応実務⑬)

 

 

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