不備金額の集計方法(J-SOX対応実務⑫)
内部統制報告制度(J-SOX)対応の実務 | 2013年3月29日今回は、弊社オリジナルの連載特集【内部統制報告制度(J-SOX)対応の実務】第15回目をお届けいたします。
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第14回では、内部統制の評価手続きにより把握された「内部統制上の不備」を集計した結果、投資者に与える影響が“重要”である場合に、「開示すべき重要な不備」になると述べました。
では、どのように「内部統制の不備」を集計すればよいでしょうか。今回は、当該「不備金額の集計方法」について記載したいと思います。
不備金額の集計の方法、及び「開示すべき重要な不備」であるかの判断は下記プロセスを経て行います。
① 不備を把握する把握(整備上の不備、運用上の不備を把握する) ② 不備の影響が及ぶ範囲の検討 ③ 影響の発生可能性の検討 ④ 不備金額の算定 ⑤ 不備金額の合算 ⑥ 最終検討
上記①については第14回の内容と重複しますし、また、読んで字のごとくですので説明を割愛します。以下では②以降について順次説明します。
②不備の影響が及ぶ範囲の検討
不備が発生した場合、どの勘定科目に、どれくらいの範囲で影響を及ぼすのか(不備が存在した事業拠点全体に関係するのか、あくまでその中の一部なのか、或いは他の事業拠点にも影響するか)を検討します。
例えば、事業拠点Aで扱っている甲商品の業務プロセスについて見受けられた不備である場合、事業拠点Aで扱っている乙商品の業務プロセスについても同じ不備が考えられるか、或いは事業拠点Bでも甲商品を扱っている場合、事業拠点Bにも影響を与えるものなのか、その影響が及ぶ範囲の検討が必要となります。
③影響の発生可能性の検討
影響の発生可能性が無視できる程度に低いと判断される場合には判定から除外することとなりますが、そうでない場合、不備の発生可能性を導き出します。米国SOX法ではこの発生可能性を算出するためのテーブルがあるのですが、日本の実施基準等ではそのようなものが存在しないため、実務では簡易的に発生可能性を、「高」、「中」、「低」とし、あらかじめ定めた比率を適用することも考えられます。
前者は例えば統計的サンプリング(第12回参照)のサンプル数が25件で不備件数が1件の場合、その発生可能性は14.7%として算出されます(テーブルに当てはめるだけです。なお、当該テーブルの存在や当該テーブルの考え方については、貴社担当の監査法人やコンサルティング会社に委ねることとし、ここでの詳述は割愛します)。
一方後者は、どのような場合に発生可能性が「高」、「中」、「低」となるかの定義付けから行う必要があるため、その導入には監査法人とのコンセンサスを図っていくことが重要です(いったん導入すれば運用は簡易的になりますが、導入までに少々手間がかかるかもしれません)。
④不備金額の算定
不備金額は、不備の影響が及ぶ範囲とその発生可能性により算定します。例えば、上記②と③で検討した結果、不備の影響が及ぶ範囲が事業拠点Aの商品①プロセスのみ(影響する勘定科目は売上高、金額は10,000)であり、サンプル数25件中不備件数が1件(発生可能性が14.7%)であった場合、その金額的影響額(不備金額)は
「10,000×14.7%=1,470」 と算定されることとなります。
⑤不備金額の合算
実施基準Ⅱ3(4)②ハでは
「内部統制の不備が複数存在する場合には、それらの内部統制の不備が単独で、又は複数合わさって、開示すべき重要な不備に該当していないかを評価する。すなわち、開示すべき重要な不備に該当するか否かは、同じ勘定科目に関係する不備をすべて合わせて、当該不備のもたらす影響が財務報告の重要な事項の虚偽記載に該当する可能性があるか否かによって判断する。例えば、売掛金勘定の残高は、販売業務プロセスでの信用販売と入金業務プロセスの代金回収の影響を受けるが、この両方の業務プロセスに係る内部統制に不備がある場合は、それぞれの不備がもたらす影響を合わせて、売掛金勘定の残高に及ぼす影響を評価しなければならない」
とし、さらに
「集計した不備の影響が勘定科目ごとに見れば財務諸表レベルの重要な虚偽記載に該当しない場合でも、複数の勘定科目に係る影響を合わせると重要な虚偽記載に該当する場合がある。この場合にも開示すべき重要な不備となる。」
とあります。そのため、上記④での不備金額の算定に基づき、不備が複数あればその合算値を求めていくこととなります。
(例) ●不備1の影響:売上10,000/発生確率:14.7%(サンプル25件中不備1件) ●不備2の影響:売上15,000/発生確率:19.9%(サンプル25件中不備2件)
⇒不備金額の合計=10,000×14.7%+15,000×19.9%=4,455
⑥最終検討
上記⑤において集計された不備金額が、貴社で算定した金額的重要性(連結税引前利益の5%等)より大きい場合、「開示すべき重要な不備」となるでしょう。また、不備金額に金額的重要性がなくても、質的重要性(第14回参照)がある場合は、「開示すべき重要な不備」となるため、不備の内容(性質)についても慎重に検討する必要があります。
なお、⑤で集計された不備金額が、貴社で算定した金額的重要性を上回ってしまった場合、基本的に「開示すべき重要な不備」となりますが、その際は、当該不備を補完する代替的な内部統制が本当に存在しないか、発生可能性が本当はもっと低いのではないか(偶然見受けられた不備にすぎない)といった事項について、今一度検討すべきでしょう。
もし補完的内部統制が存在する、ないし発生可能性が本当はもっと低いといった事実により、不備の影響額が低減されるのであれば、「開示すべき重要な不備」とならないかもしれません。その場合は誤った評価結果(しかも会社にとってマイナスの評価結果)をもたらすことになるため、最終判断は慎重に行うべきでしょう。セカンドオピニオンとして監査法人やコンサルタントの意見を仰ぐのもよいかもしれません。
では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。
第2回 そもそも“内部統制”って何?
第8回 RCM(リスクコントロールマトリクス)の作成方法(J-SOX対応実務⑤)
第10回 コンサルタントやツールの活用法(J-SOX対応実務⑦)
第11回 監査法人が行う内部統制監査への対応(J-SOX対応実務⑧)
第13回 サンプル抽出についての留意点(J-SOX対応実務⑩)
第14回 開示すべき重要な不備について(J-SOX対応実務⑪)
第15回 不備金額の集計方法(J-SOX対応実務⑫)(今回)
第16回 経営者による内部統制報告書の作成方法(J-SOX対応実務⑬)
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