非事業資産と有利子負債

今回は、弊社オリジナルの連載特集【株価算定(株価評価)-DCF法の実務】第8回目をお届けいたします。

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目次

1.株主価値の算定

第3回(DCF法総論)に記載のとおり、DCF法は「事業価値」を評価する手法です。株価算定で必要なものは「株主価値」の算定です。DCF法のみでは「株主価値」の算定は完結しません。

株主価値(ゴール)=事業価値+非事業資産-有利子負債

として算定されるところ、非事業資産と有利子負債の内容理解も重要となります。そこで、今回はこの「非事業資産」と「有利子負債」について記載できればと思います。

2.非事業資産について

非事業資産は、事業価値の創造に関係のない資産、つまり、フリー・キャッシュ・フローの獲得に貢献しておらず、処分しても事業上問題にならない資産を言います。一般的には

  • 現金預金
  • 貸付金
  • 有価証券や出資金
  • 遊休不動産
  • 保険積立金

といった勘定科目が検討対象にあがり、その中で事業価値の創造に関係あるかないかを検討して非事業資産の集計に含めます。非事業資産は、評価時点における時価で評価し、売却損益が生じる場合にはそれに伴う法人税等の影響を考慮します。

さて、実務上一番悩ましいのが上記勘定科目のうち「現金預金」の扱いです。現金預金のうち余剰資金があれば非事業資産に含めますが、あくまで事業上必要な資金ということであれば非事業資産に含めないこととなります。

事業に必要とする資金の水準は、企業によって異なり、評価対象企業の経営者の判断によって必要資金の範囲は決定されるべきものです(そのため実務では、事業上必要な資金はいくらくらいですか、と経営者に質問したりします)。

しかしながら、必要資金と余剰資金の区別をして経営に携わる局面は一般的にないことから、余剰資金額の決定には悩むことが多いのが実情です。

これについて、色々な市販の書籍をあたるも良記事に巡り会えなかった中、早稲田大学の西山茂教授が書かれた論文を発見しましたのでご紹介させていただきます。

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この論文によると、そもそも、現金預金は全部余剰資金として扱い「非事業資産」の集計に含める考えもあるようです。

理論的な事業資金と余剰資金に分ける手法に比べ、粗めな代替的な方法ではあるものの、実務的に使いやすくこの考えも一般的なようです。

実務では費用対効果も勘案し、ある程度の割り切りは必要なので、私はこのような考えは歓迎です(実際エイゾン・パとナーズではこの考えを採用するケース多いです)。

なお、事業に必要な資金を分ける場合の当該資金の推測方法については、

『過去の同業他社における対売上高キャッシュ比率が最も一般的な方法であり、この方法によると業界や企業の状況によって異なる面はあるものの、通常は売上高の 2 ~ 3 %程度が 1 つの基準のように考えられる。ただ、事業運営上必要なキャッシュの水準は、業界、企業、経済環境などによっても異なってくると考えられるので、これらも含めて総合的に評価していくことが必要だと考えられる。』

とあり、もし経営者からコメントをもらえない場合、簡便的に売上高の2~3%を事業に必要な資金と仮定する方法も実務的と言えるかもしれませんね。

3.有利子負債について

有利子負債は借入金、社債、リース債務を含みます。理論的には時価を集計する必要がありますが、実務上は時価は簿価と同額と見てよいでしょう。なお、株主価値を算定するにあたり、企業価値(事業価値+非事業資産)から有利子負債以外に控除すべきものがある場合があります。

企業価値は、最終的には全ての資本提供者に対して分配されます。その代表者が普通株主及び金融機関等の有利子負債の提供者なわけであって、被支配者株主持分、新株予約権、種類株式といった、既存の普通株主の支配が及ばない価値が存在する場合があります。

また、訴訟等の偶発債務が顕在化する場合や、臨時の退職金を支給させる場合など、企業価値から控除すべき支出が生じる場合は、有利子負債同様、株主価値の算定にあたり控除の検討が必要となります(余剰資金のマイナスとして把握してもよいかもしれません)。

いかがでしたでしょうか。文面では分かりにくい点があるかもしれませんがご容赦ください。

なお、今回の解説のみで足りない場合、当社では

▶ 株価算定業務の依頼を前提とした無料相談

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を受け付けています。もしご不明点や当社が具体的に何をやっているかについて突っ込んだお話しを聞きたいという場合、個別にお問い合わせフォームよりリクエストをいただければ幸いです。

では、今回はこの辺りで失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

株価算定連載

第1回 株価算定総論-何故株価算定書が必要か

第2回 株価算定の手法

第3回 DCF法総論

第4回 将来フリー・キャッシュ・フロー(FCF)の算定

第5回 割引率①-加重平均資本コスト(WACC)と資本構成

第6回 割引率②-株主資本コストと有利子負債コスト

第7回 予測期間とターミナルバリュー(継続価値)、割引率の採用タイミング

第8回 非事業資産と有利子負債(今回)

第9回 被支配者株主持分、新株予約権、種類株式がある場合の留意点

【オリジナルレポート】

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この記事を書いた人

公認会計士・税理士
監査法人トーマツでのIPO支援業務などを経て現在に至る。
企業の役員、アドバイザーに就任し、主に財務面からの経営戦略の立案・実行支援や管理体制の構築支援を中心に各種コンサルティング業務を提供。
バリュエーション業務の実績多数。

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