株価算定の手法

株価算定(株価評価)-DCF法の実務 | 2019年1月16日

今回は、弊社オリジナルの連載特集【株価算定(株価評価)-DCF法の実務】第2回目をお届けいたします。

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1.株価算定の手法は大きく3つ

 

株価算定の手法は「インカム・アプローチ」、「マーケット・アプローチ」、「ネットアセット・アプローチ」に大別されます。

 

 

結論的に、株価算定実務で最もよく登場する重要な算定手法であって、実務家の皆様に熟知していただきたい手法は「インカム・アプローチ」に含まれる「DCF法」ということを先にお伝えしておきます。

 

 

DCF法は実務で最もよく登場するのですが、その採用が他の手法に比べて難解です。そのため、この連載では以降の回でDCF法についてのみ触れて行くこととします。しかし、その他の手法も決して無視できるものでないため、今回、以下で簡単に触れてみたいと思います。

 

 

なお、未上場会社の買収価額交渉の初期段階においてよく「EBITDA」(イービッダー、イービットディーエー、イービットダーという発音になります)〇年分、というフレーズが飛び交いますが、これは「マーケット・アプローチ」における一つの株価算定の手法となります。

 

 

それと、皆様がおなじみの上場会社の市場株価についても、「マーケット・アプローチ」に含まれる株価算定の手法となります(市場株価も、上場会社の株価算定の一つの手法に過ぎません)。

 

 

株価算定の手法が複数ある理由は、その算定目的によって使い分けるためです。以下でそれぞれの特徴等を見て行きたいと思います。

 

 

2.インカム・アプローチ(中でもDCF法は実務家にとって一番重要)

 

インカム・アプローチは、対象企業が将来獲得すると期待されるキャッシュ・フローや利益を、割引率(資本コスト)で現在価値に割り引くことにより株価を算定する手法です。

 

 

インカム・アプローチには将来キャッシュフローの割引現在価値として株価算定するDCF法の他に、収益還元法(会計上の将来利益を基礎として割引計算することにより株価を算定する手法)、配当還元法(株主への配当期待値を基礎として割引計算することにより株価を算定する手法)といった手法があります。

 

 

インカム・アプローチは、対象企業の期待キャッシュフローや期待収益に基づいて価値評価をすることから、対象企業固有の価値を反映させることができるアプローチです。

 

 

今日のファイナンス理論においては、企業価値はその企業が生み出す将来キャッシュフローに基づいて決まると考えられています。

 

 

そのため、インカム・アプローチは企業価値の算定手法として最も理論的な方法であり、DCF法を中心として、上場企業、未上場企業を問わず実務では幅広く採用されています。

 

 

一方、将来の期待キャッシュフローや期待収益には不確実性が伴うこと、インカム・アプローチに用いる割引率等の各種指数の見積り計算が容易でなく、わずかな変動により算定結果が大きく変動するなど、問題点が存在します。

 

3.マーケット・アプローチ(株価交渉の実務で最もよく登場)

 

マーケット・アプローチは、対象企業が上場会社である場合には、その市場株価を基礎として、また、未上場会社である場合には、同業他社の市場株価や類似取引事例などを基礎として、相対的な価値を算定する手法です。

 

 

市場株価や取引事例といった客観性の高い指標を用いた算定手法であるため、マーケット・アプローチは客観性が高い算定手法と言われています。

 

 

なお、上場会社の株価の算定には、市場株価を基礎として算定される「市場株価法」が最もよく使われますが、これはみなさんが時価として現実的に取引している株価であるため、その客観性に文句のつけようがないと思われます。

 

 

ただ、いつの株価を使用するか?という点において恣意性が残ってしまうため、一般的には買収等の取引基準日における「前日終値」、「1カ月平均株価」、「3ヶ月平均株価」、「6ヶ月平均株価」を算定し、その4種類のレンジ内で取引株価を決定する場合が多いです。

 

 

未上場会社の株価算定にマーケット・アプローチを用いる場合は、上場類似会社の「EV/EBITDA倍率」や「PER倍率」を用いて算定を行うことが多いです。

 

 

この「EV/EBITDA倍率」が上述した、〝EBITDA〇年分”という買収交渉初期段階によく出るフレーズとなります(「EV/EBITDA倍率」や「PER倍率」は実務でよく出てくるので下記解説加えます)。

 

 

なお、EV(Enterprise Value)は企業価値総額のことであり、一般論として、これにネットキャッシュ(現金預金-有利子負債)を足すことで株主価値(株価×発行済株式総数)が算定されます。

 

 

EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)は簡潔に言うと、損益計算書の営業利益+減価償却費(簡易営業キャッシュフロー)を意味します。

 

 

買収交渉の初期段階では、対象企業のEBITDAがいくらかを把握し、その〇年分を買収価額の初期目線とするケースが少なくありません。

 

 

本稿記載の数年前まで、直近EBITDA3~5年分(業種によって違う)プラスネットキャッシュという目線が一般的でしたが、最近はEBITDA10年分を見る場合も少なくないようです(主としてバイアウト目的の外資ファンドによる買収)。

 

 

PER倍率は、時価総額÷当期純利益(一般的には株価÷1株当たり当期純利益)として算出する指標であり、類似上場企業のPER倍率に対象会社の当期純利益を乗じることで対象会社の時価総額を算定する手法です。

 

 

未上場会社の株価算定における類似会社比準として「EV/EBITDA倍率」や「PER倍率」を用いる際は、上場類似会社の選定が重要です。

 

 

業界平均値のようなものを採用するとよいかもしれませんが、対象会社の特徴と厳密にマッチする上場類似会社の選定は困難である場合が多く、実は株価算定実務で用いるケースは多くありません。

 

 

ただ、目線として一般的に分かりやすい指標なので(なので買収初期段階でよく用いられる)、こういうものがあるという点についてご理解いただければと思います。

 

4.ネットアセット・アプローチ(採用は限定的)

 

ネットアセット・アプローチは、対象企業の一定時点の貸借対照表をもとに評価する手法です。対象企業の一定時点の貸借対照表を基礎とするため、一般的に理解されやすく、客観性が高い算定手法です。

 

 

ネットアセット・アプローチは極端な言い方をすると、今会社を清算し、資産を現金化して負債を全額返した場合、株主にいくら残せるか、という観点の算定手法です。

 

 

或いは、今対象会社の資産及び負債を再調達した場合に係るコストはいくらか、という観点から価格算定を行う手法です。

 

 

この手法には一般的に将来の収益力は反映されず、「今」の価値のみしか反映されません。つまり、継続企業の評価方法とは適合せず、これから清算する予定の会社や、赤字が続く等により、将来黒字の予測が困難である場合などの会社にのみ用いられる手法です。

 

 

将来収益に不安があり保守的な株価評価をする場合にも用いられることがありますが、株価算定書を発行するような実務に登場するケースは限定的です(相続や事業承継は除く)。

 

5.3つの手法の一般的な使われ方

 

上場会社は自社の市場株価が存在するため、以下は未上場会社を前提とした話となります。

 

 

そもそも株価算定は増資や株式譲渡(買収等)などの際に必要となります。株価算定が必要となる取引の大半は、企業の将来の収益力に着目して行われるのが一般的です。

 

 

そのため、3つの手法のうちインカム・アプローチが最も取引目的に合致した算定手法ということができ、まずこの適用を第一に考慮する必要があります。

 

 

ただし、上記のようにインカム・アプローチにも問題点があります。将来の収益力は不確実性が伴いますし、赤字続きでその算定すらできないことがあります。そこで、インカム・アプローチによる算定額の合理性を補完する手法としてマーケット・アプローチを用います。

 

 

将来計画の策定が困難であるなど、インカム・アプローチの採用が困難な場合にもマーケット・アプローチの採用が有効となります。

 

 

なおコスト・アプローチは、将来の収益力を直接または間接的に反映するインカム・アプローチやマーケット・アプローチと前提が異なるため、そもそも起業の将来の収益力に着目して行われる株取引の際に採用すべきではありません。採用する場合は、以下のような限定的な状況が考えられます。

 

 

① 企業が精算手続き中である場合、又は精算を予定している場合

② 企業経営が順調でなく、利益が少ないか又は赤字体質である場合

③ 過去に蓄積された利益に比し、現在は又は将来の見込利益が少ない場合

④ 資産の大部分が不動産であり、かつ、精算が容易に行えるような場合

 

 

今回は株価算定の手法に関する全般的な内容について記載させていただきましたがいかがでしたでしょうか。

 

 

株価算定の各手法は、株価算定の目的や対象会社の状況に応じて選択されるものであり、一義的にこれを採用しなければならないというものではありません(とはいえ実務ではDCF法の採用が多いですが)。

 

 

もし実務で株価算定の採用方法の問題に直面する場合は、上記をご参考にしてみてください。文面では分かりにくい点があるかもしれませんがご容赦ください。

 

 

なお、当社では

 

 

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では、今回はこの辺で失礼いたします。お読みいただきありがとうございました。

 

 

【目次】

第1回 株価算定総論-何故株価算定書が必要か
第2回 株価算定の手法(今回)
第3回 DCF法総論
第4回 将来フリー・キャッシュ・フロー(FCF)の算定
第5回 割引率①-加重平均資本コスト(WACC)と資本構成
第6回 割引率②-株主資本コストと有利子負債コスト
第7回 予測期間とターミナルバリュー(継続価値)、割引率の採用タイミング
第8回 非事業資産と有利子負債
第9回 被支配者株主持分、新株予約権、種類株式がある場合の留意点

 

 

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